釣りをするなら動物行動学を学ぶと便利
さてさて
以前さらっとナマズの生息地について調べているというお話しをしました。
で、その調査に使用するのが主に釣りで、簡単に言えば釣りあがればそこに間違いなくいる。釣れなければいないかもしれないという可能性が残るという単純な指標になります。
ナマズ釣りは比較的難しい釣りで、コツをつかまなければ釣り上げるのは困難です。
私も釣りの中でも特に難しい対象魚になると思っています。
じゃあなぜ調査できるほどコンスタントに釣れるのかというと、動物行動学をかじっていたからだと思います。
専攻していたわけではありませんが、単純に好きだったのでよく授業に忍び込んで聞いたり、本を買って読んだりしていました。
というわけで今回もよりによって飼育方法ではないのですが、動物行動学と釣りの関係について暇つぶしがてら書いてみようと思います。
動物行動学ってなんぞや
動物行動学は、簡単に言えば動物の行動を研究する生物学の一分野です。
行動学に陶酔した学者は、昆虫記で有名なジャン・アンリ・ファーブルや、チャールズ・ダーウィンなんかが有名ですね。
たしかアリストテレスも研究していたはず。
たとえばなんでベタはわざわざ産み落とした卵を泡につけて育児するのかとか、その生き物の行動の意味と理由、それに付帯する結果を考えるわけです。
あんまり日本だと専門的に学べる大学がないので有名ではないですが、かなり楽しいので生物学を本気で学びたい学生諸君はぜひ。
なんで行動学を知れば釣りが上手くなるのか
さて、早速本題に移って、なぜ動物行動学が釣りに繋がるのか。
話すこと自体が無駄なほど直接的に関係していそうな名前なわけですが、あえて暇つぶしに細かく考えてみましょう。
マッチ・ザ・ハッチを例にとって
マッチ・ザ・ハッチとは、フライフィッシング用語で、渓流魚の餌になる昆虫にあわせてフライ(毛鉤・疑似餌)を変えるというもの。
ちなみにルアーの場合はマッチ・ザ・ベイトになります。
これ自体は正直どういうものかやったことがないのですが、聞き伝えられた話だと春先にはユスリカが多いので小さいフライを、初夏にはカゲロウなどやや大きめの昆虫が増えるので大きめのフライをといった具合に、魚に合った疑似餌を選ぶという考え方だそうな。
これも生き物の生態を人間(自分)の行動しか知らないと、自分に照らし合わせて「魚が食べる餌なら年中同じでいいじゃん」と思いがちですが、フライフィッシングは500年以上の歴史があり、500年続いた結果マッチ・ザ・ハッチが行われているということは伝統以上の意味があると考えられます。
マッチ・ザ・ハッチ(ベイト)が有効な方法だと仮定すると、魚は「食べたことがあるから食べる」ではなく、「その時期によく食べられる餌を優先して食べる」ことが予想できますね。
食べたことがあって好きなはずなのに、時期が外れると食べなくなるというのは不思議です。
しかし実際、釣った魚の胃の内容物が、同じ種類の昆虫に偏っていることがあります。
もしかしたら人間の農産物と同じように、旬ではない虫はあまり美味しくないのかもしれませんね。
つまり、このマッチ・ザ・ハッチも魚の行動を読んで釣っていると言えるわけです。
もちろんマッチ・ザ・ハッチがすべてではありませんが、対象魚の行動にあわせた釣りが釣果に繋がりやすいというのは間違いありません。
マッチ・ザ・ベイトではないマッチ・ザ・ベイト
上の例で、行動学と釣りが密接な関係にあることはわかりましたね。
しかし、釣りのすべてが対象魚の餌になるものを選ぶマッチ・ザ・ベイトで上手くいくとは限りません。
なぜでしょう?
では、実際に釣果につなげる上で重要になるポイントを考えてみましょう。
今回私が調査対象にしているニホンナマズを例にとってみます。
ニホンナマズの釣りにおいては、ノイジープラグを使ったトップゲームが主流です。
ノイジープラグとは、水を揺らして音や波紋を出すルアーのことで、トップゲームとはルアーを水面で泳がせて誘うスタイルのことです。
しかしナマズのメインの餌は、田んぼなど特定のエリアを除けば水中にいる小魚などで、水面を泳ぐカエルやネズミはそこまで多く食べていないはずです。
これではマッチ・ザ・ベイトの考え方からするとセオリーにならないはずです。不思議ですね。
じつはこれもナマズの行動にあわせた理にかなった釣り方です。
ナマズは目が小さく、視力は悪いと考えられています。
実際、淡水であればバスやオヤニラミ、海水であればサバやメバル、マグロなど肉食性の強い魚の多くは、獲物をしっかり見られるようにギョロっとした大きな目をしています。
では同じ肉食魚であるナマズがなにをもって餌を探すのかというと、それは音や振動です。
つまり、目が悪い上に暗い中では水中を泳がせるスマートなルアーを使うよりも、水面をボコボコと揺らしながら泳ぐノイジーがナマズは反応しやすいというわけです。
自然界での食性に合わせたわけではないので、本来のマッチ・ザ・ベイトとは違いますが、人間が魚を騙すという目的と、釣り上がりやすい時合をあわせた結果、このノイジープラグという選択がナマズに合ったベイトとなるわけです。
これには「水面に食いあがってくるナマズが面白い」という人間側のエゴも含まれているので純粋に動物行動学に照らし合わせた選択とは言えませんが、たしかに行動に裏付けられた選択といえますね。
私は釣りを最大限楽しむというよりは、魚が生息しているか調査することを重視しているのでノイジーに限らず餌でも釣りますが、その上でもナマズが食いつきやすいルアー、ないし餌を選んでいますが、それを書くと長くなるのでまた別な機会に。
本能行動と学習行動
これはどちらかというと、行動に照らし合わせた釣りをしている筈なのに釣れないという場合に有効な考え方です。
動物には、本能行動と学習行動があります。
具体的に、わかりやすく人間を例にとって考えてみましょう。
・お腹が空いたから食べ物を探す
これは遺伝子に組み込まれている本能的な行動ですね。
誰に教えられたわけじゃないけど誰でも行います。
・お腹が空いたから何か食べたいけど空腹時に甘いものを食べると血糖値が急上昇してフラフラしたり眠くなるので避ける
これは本能的ではなく、過去の経験から学んで自分で選択した学習的な行動です。
甘いものを食べてフラフラした経験がない人は気にせず甘いもの食べますよね。
ちなみに人間の行動のほとんどかこの学習行動にあたります。
これが釣りになんの関係があるのかというと、大有りなんです。
釣りにおいて、アピールというのは本能行動に照らし合わせて考えます。
たとえば、先ほど紹介したナマズのように、音と振動で餌を探すのも本能行動です。
本能行動が学習行動に邪魔されることはあれど、有効なアピール方法になるのは間違いありません。
一方学習行動は、釣りにおいてはマイナス方面にも働きます。
代表的なものがスレで、魚がルアーに警戒心を持って食べなくなってしまうことです。
これも「なんか最近餌を食べると嫌なことが起こるな」と学習した結果、捕食という本能行動の邪魔をしているわけです。
餌の選別までするかどうか、そもそも学習するのかはその生体、さらには固体によっても違います。
もちろんプラスにも働くこともあり、たとえば人工的な水の流れ込みに魚がよく付くのは、餌がそこに流れてくる可能性が高いことを学習した結果と考えられます。
つまりは、魚の行動を「あらがえない本能的なもの」と「学習によって取る二次的な行動」に分けることで、より効果的な釣り方を導き出すことができるわけです。
釣れない時にも、スレたならなぜスレたのか、対象魚はどの程度の認識能力があって何にスレたのかまで考えることが行動学的な釣りの楽しみ方ですし、今後の釣果に間違いなく繋がると思って意識しています。
道具を行動に合わせて選ぶ
最近の釣り具の進化は目覚しく、多種多様の様々な商品が並んでいます。
実際どれを使っても釣れない事はないんですが、専用品でなくとも用途に合ったものを選ぶことでかなり釣果がでやすくなります。
これも、直接的ではありませんが、魚の行動に合わせて選ぶことができます。
特に独特な道具を使う雷魚釣りを例にとってみましょう。
雷魚釣りでは、基本的に硬い竿で、太いライン、フロッグを使います。
これは雷魚が大きいからではなく、雷魚が潜む場所は草が茂っているので、草に引っかかっても引き抜けるように硬い竿で、丈夫なラインを使用し、そもそも引っかかりにくいようにフロッグを使います。
では逆に柔らかい竿で、細いライン、フロッグ以外のルアーを使うとしましょう。
すると草に引っかかったときに竿が曲がってしまうと引き抜けず、細いラインだと根を張った草を引っ張ると切れてしまい、引っかかりやすいルアーだと雷魚の潜む場所に打ち込めません。
すると雷魚のいない草のないところに投げるしかなくなるので、釣り上げる確率はかなり低くなります。
つまり魚の行動にあわせた釣りができないので、釣果につながらなくなるというわけです。
他の釣りでもここまで理にかなった考え方はせずとも、岸から遠くにいる魚を釣るなら遠投できる竿を、比較的近くの岩陰などに潜んでいるならルアーを投げる精度が高いタックルを使用するわけです。
もうひとつ魚の行動にあわせた道具の選び方を紹介します。
またもやニホンナマズです。
ナマズ釣りは、水面を泳ぐルアーで釣るというがセオリーだというのは先ほどお話したとおりです。
では、そこから考えられるナマズの行動に合わせて適切な道具を考えてみましょう。
水面を泳ぐルアーを食べるナマズは、ほぼ間違いなくルアーの下、斜め下から食べてきます。
そしてルアーを食べたら、水中に引き込もうとします。
ではこの行動にあわせた道具選びはというと、柔らかい竿です。
ナマズは70cm以上になる大型の魚なのに、なぜ柔らかい竿がいいのでしょう。
それはナマズがルアーを水中に引き込むときに、硬い竿だと竿の抵抗でルアーがすっぽ抜けてしまうからです。
つまり、ナマズがルアーを離しにくいようにナマズの行動に対して抵抗の少ない竿が適しているわけです。
ついでにいえば、やわらかくて細い竿だと大きいナマズに壊されてしまうこともあるので、太くてやわらかいグラスロッドが好まれます。
これは行動学といえるほど難しい話ではないですが、行動に合わせて適切な道具選びをすることは重要だとわかりますね。
人間らしく脳みそを使って釣りをしよう
行動学といっても、釣りに使う程度の知識だとそんなに難しいことではありません。
その魚に思いをはせて、どういう行動を取るのか、それに対して有効な道具、誘い方はどういったものになるのかというシンプルな思考です。
インターネットの発達から、人間の行動にも大きな変化があるように思います。
それは、途中式を考えず結論を求めるようになったこと。
いまはインターネットに聞けばなんでも答えがすぐに手に入るので、最も重要な途中式を求めなくても結論が手に入るようになりました。
それでは、途中式にある問題点に気付くことはできません。
人間が馬鹿になったとまでは言いませんし、楽しようとするのは人間本来の欲求です。
ただ、そこを考えないと間違いを踏みやすいということは念頭においておいてほしいものです。
釣りというのは、人間の知恵を使って生き物を騙す行為です。
これも生き物を騙すことばかり考えて、自分の知恵を使わないと単調で結果が出にくいときに、その答えにたどり着けません。
重ね重ねになりますが、釣りたい魚に思いをはせて、行動をよく観察し、それに適切な行動を取ればおのずと結果は付いてきます。
そうすることで、もっと釣りを楽しめるようになると思いますよ。